歳入コストの大きさに悩まされている欧州各国
実は、比較的新しい時期に消費税(一般に「付加価値税〈VAT=value added tax〉」という)を導入した、日本(1989)、ニュージーランド(1986)は、逆進性緩和措置としての軽減税率などを持たないため、課税ベースが広く、税率構造も簡素であり、効率的に社会保障を支えるために必要な税収が調達できる「第二世代の税制」とされ、歳入コストの大きさに悩まされている第一世代の欧州の国から、理想的な税制として高く評価されているという。
日本新聞協会の新聞への軽減税率適用を訴えるパンフレット(「新聞と消費税 軽減税率は世界の常識」)の「世界の常識」に、新聞への軽減税率などがないオセアニアの2つの先進国が入らないのは、ご愛嬌というところか。
前出の小黒教授は、「軽減税率は世界の潮流でない。」と断じている。IMF(国際通貨基金)が2001年に出版した 「The Modern VAT」という世界の付加価値税を国際比較した専門書によれば、複数税率で導入する国は急激に減少して、1990年以降は単一税率で導入する国が大勢を占めているし、また、「マーリーズ・レビュー」(Mirrlees Review=2010年、イギリスのノーベル経済学賞受賞者であるジェームズ・マーリーズ卿を座長に世界トップクラスの経済学者チームによって作成・公表された税制改革指針)では、単一税率の付加価値税を導入しつつ、低所得者対策は給付付き税額控除で対応する方式が最も望ましいと提言しているという。
しかし、「社会保障や税負担の公平性への信頼があれば、逆進的な税であってもその財源の1つとして受け入れられる」が、そうでないと、今回の軽減税率導入の議論の底流にみられる「政府不信」が、税制論議に極めて有力に影響を与えるのは止むを得ないということなのだ。信頼回復に取り組んでも、いっこうに改善がみられないのは誠に残念至極だ。
経済官庁(総務課長級 出向中)AK