2015年ベストセラーは、220万部以上を売り上げた又吉直樹さん(35)の同年上半期の芥川賞作品『火花』が話題をさらったが、もうひとり、注目の人がいる。
『流(りゅう)』で同期の直木賞を受賞した東山彰良(ひがしやま・あきら)さん(47)だ。こちらも24万部以上を売り、日販調べによると、今年の単行本フィクション部門で9位に入っている。
祖父は中国・山東省出身
単に本が売れたというだけではない。東山さんは経歴も変わっている。台湾出身。9歳のとき両親と日本に移住、福岡で育った。ペンネームの「東山」は祖父が中国・山東省出身だったことに由来する。本名は「王震緒」。
当然ながら日本語と中国語のバイリンガル。大学卒業後は通訳をしたり、福岡の大学で中国語を教えたりしてきた。2002年、『タード・オン・ザ・ラン』が第1回「このミステリーがすごい!」大賞で、銀賞と読者賞を受賞。09年には『路傍』で第11回大藪春彦賞を受賞している。
『流』は、父をモデルにした青春小説だ。直木賞の講評で、北方謙三選考委員は、「20年に1回という素晴らしい作品。歴史的な受賞作にもなり得る」と絶賛した。台湾でも受賞は大きなニュースになった
。11月25日には都内で開かれた出版社のイベントで、やはり台湾出身で11歳のころ日本に移住、歯科医、女優、エッセイストとして活躍中の一青妙(ひとと・たえ)さんと、「台湾に生まれ、日本語で書く~歴史と家族とアイデンティティ~」と題して対談した。一青さんは、歌手の一青窈さんの実姉。
朝日新聞の「年末回顧2015 文芸」では、文芸評論家の池上冬樹さんが、エンタメ部門の「私の3点」のトップに『流』を挙げ、「輝きにみちた青春小説の名作」と高く評価している。