中枢と現場の違い
他方で、無謀な命令に敢えて従った氏の判断は「反骨」と言えるだろうか。
最高裁にあって多くの少数意見を出した故団藤重光教授は、「気骨を持って進むとき、何かにぶつかることがあるでしょう。ぶつかると跳ね返りますね。そこで『反骨』になる。そのとき囚われた目で見るのではなくてね、あるがままを見て、そこで『正義』を実践する。法の本質はここにあります」と語っている(「反骨のコツ」朝日選書、下線部評者)。
小沼氏は、その軍歴からして陸軍中枢にあったと言ってよい。その主張は後世から見れば正しい。もし「正義を実践」するべく軍中枢で論陣を張った反骨の人が、戦場では絶対の命令に「囚われた」とすれば、皮肉を通り越し悲劇的ですらある。