■「反骨の知将」(鈴木伸元著)
旧軍人についての書は数多くあるが、先月、そこに新たな一冊が加えられた。主人公は陸軍の小沼治夫少将である。
著者は、NHK報道局報道番組センター社会番組部チーフ・プロデューサー。
奥付に「『NHKスペシャル』や『クローズアップ現代』などを担当」とある。NHKの花形プロデューサー、といったところだろうか。
近代戦への転換を主張した小沼少将
著者が小沼少将を「反骨の知将」と称する理由は明らかだ。
日露戦争、ノモンハン事件の戦訓をまとめ、精神力を重視していた陸軍内にあって火力と機動力の重要性を主張したからである。そうした軍の近代化が実現しなかったことは歴史の示すとおりである。
よって一番の読みどころは、小沼氏の立論と、これへの陸軍内の反応となる。
例えば著者は「日露戦争後の『精神力』に対する過信を、陸軍内部から批判した『戦闘の実相』は、上層部からの激しい抵抗にあった」(P32)とする。
その上で、戦後、小沼氏本人が防衛研究所で講話した際のメモを示す。氏はこの批判的な報告について上司に「大和魂で頑張れる、軍隊は精鋭だと信じていたのに、えらいことになった。もう少し考え直せ」「課長として問題だから、これは上へは出せんよ」と言われたという。大組織の病弊を端的に表して余りある。