マネー資本主義のアンチテーゼ 「東京」にもいつかは必要とされる「逆転の発想」

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「里山資本主義~日本社会は『安心の原理』で動く」(藻谷浩介・NHK広島取材班、角川書店)

   著者のNHK広島取材班(当時)の井上恭介氏は、2008年秋のリーマンショック以後、「マネー資本主義」というNHKスペシャルのシリーズ制作に携わった人物である。取材を通じ、金融工学の実態を知った彼は、グローバルなマネーの恩恵にすがるしかない仕組みに問題意識を持つようになる。東日本大震災を通じ、我々の生活のすべてが自分の手の届かない大きなシステムに組み込まれることのリスクが顕在化する。同氏は震災の年(2011年)の6月に広島に転勤し、取材を通じて中国山地の「里山」の暮らしの「常識破りの現場」を目の当たりにし、藻谷氏とともに「里山資本主義」の番組制作に取りかかる(コラムの読者の中には既に「デフレの正体」をお読みになられた方も多いと思うので藻谷氏の紹介は割愛する。)。本書は番組に登場する里山の現場を紹介しつつ、そこから得られる考察を基に、マネー資本主義に対するアンチテーゼとも言うべき「大胆な提案」をしながら展開されていく。

  • 里山資本主義~日本社会は「安心の原理」で動く
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廃棄物で発電、CLT導入...「ジリ貧」から「最先端」へ

   本書に最初に登場する里山の現場は岡山県真庭市である。真庭市は2005年に周囲の9町村が合併して誕生した人口5万人程度の市である。市内の8割が山林という典型的な山村地域であり、林業と製材業が地域の経済を支えてきた。国内の木材産業はどこも厳しい経営状態が続いているが、真庭市では、そんな「ジリ貧」の業界を「最先端」に変えようとする取組が行われている。一つ目の取組は製材の課程で発生する木くずを燃料にするバイオマス発電である。製材所が使う電力をバイオマス発電にすることにより、電力会社への年間1億円の支払いが浮く。夜間の余剰電力の売電収入が年間5千万円。毎年4万トン発生する木くずを産業廃棄物として処理すると年間2億4千万円かかるが、この費用も浮く。全体として年間約4億円の収支向上になる。

   二つ目の取組は、日本へのCLT(クロス・ラミネイテッド・ティンバーの略。直訳すれば直角に張り合わせた板のこと。直角集成材とも言う。)の導入である。通常、木造建築というと、柱や梁に木材を利用するが、CLTは木を縦横交互に張り合わせた巨大で分厚い板であり、CLTの木材建築は、壁が丸ごと、天井が丸ごと、床が丸ごと木材になる。CLTは鉄筋コンクリートに匹敵する強度を有する。また、空気を多く含むので断熱性が高く、耐火性では鉄筋コンクリートを上回る。こうしたことから欧州諸国では2000年代当初から急速に導入が進んでいる。日本政府においても、CLTの活用は、間伐の推進、木材関連産業の活性化、ひいては山間地域の経済活性化にもつながるものと位置づけられ、例えば「日本再興戦略2015」において、木材を活用した中高層建築物の建設の推進や2020 年のオリンピック・パラリンピック東京大会を契機にCLTを推進することが明記されているところである。(注=本書は2013 年に出版され、当時はCLTによる建築はまだ認められていなかった。この2年の間に物事は急速に進んでいるようである。

【霞ヶ関官僚が読む本】現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で「本や資料をどう読むか」「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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