改革成功の極意
本書では、「お荷物」だった組織が、営業改革によって生まれ変わっていったプロセスとともに、改革成功の極意が具体的に書かれている。詳しくは、本書をお読みいただきたいが、営業部門に限らず、組織改革全般に通じるテーマが数多く指摘されている。そのいくつかを紹介したい。
【1】まずは営業量(訪問件数)を2倍にせよ――ノウハウやテクニックは、その次――
営業の実績を上げるため、改革を行おうとする場合、つい営業の質、つまり、営業のノウハウやテクニックを強化することを考えがちだが、著者曰く、まずは営業の量を徹底的に追求する方が効果が上がるという。
営業の質を上げるためには、成果が上がらない自分の従来のスタイルを捨て、他人のより良いやり方を取り入れることが必要となるが、意外なほど、営業マンはそれができないという。特に、ベテランほど難しいそうだ。
加えて、心の底では改革を望まない者も多い中で、そのモチベーションを上げ、維持していくためには、改革の成果が速やかに目に見えることも重要だという。営業量を増やすこと自体は、誰でもできるし、すぐに数字に結果が現れる。
著者は、通例、営業量(訪問件数)を2倍にするという目標を立てるという。営業量を2倍にするためには今まで諦めてきた難易度の高い家庭を再訪問するなど新たな挑戦が必要となる。その経験が従来のスタイルへのこだわりを断念させ、新たな気づきとなって、レベルアップにつながるそうだ。
しかし、ただ営業量を増やせというのではなく、その分、他の無駄な時間(作業)を減らすことが必要だ。多くの改革では営業量を増やす、ノウハウを学ぶ、目新しい方法を導入するといった足し算の対策が中心となるが、むしろ、無駄の排除という引き算の対策が重要だという。
コープさっぽろの場合には、まずは「1日100件訪問」という目標を設定する一方で(従来の平均は1日40件)、移動時間(動線)、会議の時間、そして営業日報の作成等のデスクワークを徹底的に削減するように力を尽くしたという。
驚いたことに平均的な営業マンの場合、営業に従事する時間はたったの2割に過ぎないという。他方、優秀な営業マンでは、移動の工夫やデスクワークの省力化等により、営業に4割を超える時間を割いているそうだ。
ちなみに、「1日100件」という目標は、その後、「1日3アポ100件」に発展させたという。つまり、アポのある1件を訪問した後、その周辺の30件を回り、その後、再び別のアポ先を訪問、その後、再び周辺の30件を回る。これを1日3セット行うというアプローチだ。この仕組みを導入した頃には、営業マンの実力も上がっており、その成果は高まったという。
【2】凡人だけで最強の営業部を作れ
改革に当たっては、つい、優秀なスタッフを当てにすることが多いが、著者曰く、「優秀な職員は放置」すべきという。全員一律に改革案に従わせなくてはならないとして、これまで実績が上がっていた職員にも新たなルールを適用しようとするが、しばしば逆効果になると指摘する。
一般に多くの管理職は、成績が優秀なスタッフとばかり、仕事の話をしているという。それに対し、成績の悪い営業マンとの接触頻度は少なく、コミュニケーションが不足している場合が多い。優秀な部下は、前向きで、どんどん報告してくるし、理解が早いので相手をする管理職の気持ちも高揚するが、そうでない部下の場合には、後ろ向きな話が多く、言い訳もするし、理解力も劣る。仕事の話をすると腹が立つので、ついつい後ろ回しにしてしまう。しかし、組織の力を上げていくためには、成績の悪い相手こそ、努めてコミュニケーションを取るべきなのだ。
改革成功のカギを握っているのは、「凡人社員の底上げ」であり、営業改革とは、普通の社員に自己流のやり方を捨てさせ、徹底的なテコ入れで営業力を底上げすることだという。個人芸に期待して優秀な営業マンが支える営業部から、凡人営業マンが支える営業部へのシフトチェンジこそが目指す改革だと指摘する。
【3】人の育成に手間を惜しむな
著者によれば、上司が部下に決して言ってはいけない、二つの言葉があるという。
「言われなくても自分で考えろ」
「一度教えたじゃないか!」
大切なことは何度でも言わなくてはならない。部下や後輩に「それ、昨日も聞きましたよ」と言われても、ひるんではいけない。リーダーは、来る日も来る日も同じことを言わなくてはならないというのだ。
コープさっぽろの営業改革が成功した背景には、執行部が全くブレることなく、改革の方針をしっかりと一人一人の営業マネジャー、営業マンに浸透させたことが大きいという。これにより、多くのスタッフが、意識を同じ方向に向け、一体となって改革を実行していったのだ。この過程で、スタッフ一人ひとりが変わり、組織も生まれ変わったという。
本書の最後で、著者は、コープさっぽろの理事長の言葉を引用し、締めくくっている。
「人は変われるということを知ったことが、経営者としては、一番嬉しかったね」