「どん底営業部が常勝軍団になるまで」(藤本篤志著、新潮新書)
この夏、札幌に出かけた際に、書店に山積みになっていたのがこの本。ポップには「何が起きたのか!?」、「地元の生協『コープさっぽろ』が引き起こした奇跡の改革ドキュメント」とあった。旅のつれづれにと思い、手に取って、読み始めたら、「ルーズヴェルト・ゲーム」「下町ロケット」など池井戸潤の小説を地でいくような話であった。
話題の主は「コープさっぽろ」の「宅配営業部」。花形部門(店舗事業)を退いた50代の職員を中心とするマイナー部門であり、「どん底部隊」と呼ばれていた。しかし、2008年に営業改革に取り組んで以来、何と今年まで320週連続、足かけ6年にわたって、週間目標を達成し続けている。今や、コープさっぽろ全体を支える屋台骨となる存在だという。
本書は、この奇跡の改革に伴走してきた営業コンサルタントが、業績不振に悩む営業関係者にとって最強の参考書になると考え、ぜひとも世の中に知ってほしいと書き上げた。
著者曰く、営業コンサルティングを始めて10年、これまで約70社の営業改革に携わってきたが、これほどダイナミックで感動的な改革はなかったという。
生まれ変わった「どん底営業部」
宅配営業部は、営業改革に着手する前、毎週、負け続けていた。新規顧客獲得数の週間目標を達成することなど「奇跡の領域」だったという。しかし、改革によって、社員の意識が変わり、14週目には初めて目標を達成し、10か月後には誰もが想像しなかった「連勝街道」が始まった。そして3か月間、12週連続で目標を達成し続けていた。
しかし、13週目に、絶体絶命の時が来た。724件の目標に対し、締切日の午後6時の時点の獲得数は704件、20件足りない状況となったのだ。宅配営業部のトップ、宮嶋本部長も自分にこう言い聞かせたという。
「ここまで頑張れたんだ。連勝記録がストップしても、どうってことない。気持ちを入れ替えて、来週から出直せばいい」
ところが、生まれ変わった宅配営業部は、ここから底力を発揮する。それまで「どん底営業部」と呼ばれていた集団とは思えない奇跡を起こした。
まず、宅配営業の責任者、行沢部長が呼びかけた。
「1チーム1件でいいから、今日中に新規の獲得、何とかしてほしいんだわ!何とかなるべー!」
「宮嶋本部長、今日ここで連勝を途切れさせるのはもったいないべ。まだ時間があるんで待ってください。現場は必ずやってくれますんで!」
北海道全域30のエリアに配属されている営業マネジャーに電話をかけまくり、個人宅に宅配加入を営業している総勢130人の営業マンに奮起を促した。
午後7時過ぎから、ぽつりぽつりと新規獲得の報告が届き始めた。
「今、うちのチームの営業マンから1件、新規獲得の連絡が入りました」 「もう30分ほどもらえれば、うちのチームでさらに1件、契約までもっていけそうです」
9時過ぎには723件目の連絡が入り、いよいよあと1件。
9時半に電話が鳴った。
「おっ、そうか!1件とれたか!」
行沢部長がフロアに響き渡る声で叫んだ。
「13連勝達成だ!」
そのとき、宮嶋本部長は男泣きしたという。
「うちの宅配営業部の営業マンたちがこんなに頑張るなんて――涙があふれてきました」