「英雄」が誰かを名言せず
リヒャルト・シュトラウスの交響詩「英雄の生涯」は、彼にとっての最後の交響詩であり、それまでの集大成と言ってよい作品でした。そのため、管楽器を4人ずつそろえた100人からなる大規模オーケストラの作品となり、また、作品中に前出の「ツァラトストラ~」をはじめ、自分が今まで書いた交響詩の作品のモチーフをちりばめたりしています。
英雄、というのが誰のことかは楽譜には書かれていません。ただ、彼自身が、周囲の人に、この作品を解説して、「英雄」「英雄の敵」「英雄の伴侶」「英雄の戦場」「英雄の業績」...などと、一人の英雄が人生を送る様子に当てはめています。周囲は、結局その英雄とはリヒャルト・シュトラウス自身ではないか―批評家の厳しい目にたびたびさらされて、音楽家として戦っているのは良く知られていたところでした―と推測しましたが、結局彼は、それが誰かを明言しませんでした。