介護の場というより、寄合のような、大家族のような―支え合いながら共に生きる―
本書で紹介される「すまいるほーむ」の実践を読んでいくと、まるで介護の場というよりも、地域の中にある寄合か、あるいは今では数少なくなった大所帯の家族のようである。
確かに、定員10名という小規模な施設だからできることのようにも思えるが、小規模施設だからといって、どこでもこんな雰囲気が実現できているわけではない。著者自身が書いているように、「すまいるほーむ」自身、聞き書きや数々の季節のイベントを行う中で、利用者と介護スタッフが介護される側/介護する側という一方的な関係を逆転する体験を重ねることを通じて、雰囲気が変わってきたのだ。
「すまいるほーむ」も介護保険適用施設だから、本来、「すまいるほーむ」と利用者は、契約に基づいて、施設側が介護サービスを提供し、利用者がこれを利用する関係にある。煎じ詰めれば、ドライな関係であるが、この現場では、サービスを与える/受けるといった感じはなく、利用者も介護スタッフもゆったりとした時間の流れの中で、一緒に活動している風に見える。それが利用者にも、介護スタッフにも、居心地のよい場所になっているようだ。
著者曰く、「私自身にとっても、ここは、人生で初めて得た『生きにくさ』を感じなくてもいられる貴重な居場所となっている」という。
確かに、介護保険というドライな契約制度の枠組みの下で、寄合のような場、大家族のような場というのは矛盾するようにも見える。しかし、こうしたケアを望む利用者や介護スタッフは少なくないだろう。制度の効率化が強く求められている状況下では、容易ならざる課題だが、制度と現場の調和が図られる形で、より柔軟な仕組みを考えていく必要があるように思う。
そして何より、こうした居場所づくりに、著者の提唱する「聞き書き」の手法は、大きな可能性を有している。前著で示された「思い出の記」に続いて、本書では、「思い出の味」、「人生すごろく」と新たな展開を見せているが、今後、さらに発展し、各地であっと驚くような楽しい取組みが始まることを期待したい。
厚生労働省(課長級)JOJO