お年寄りの人生の「聞き書き」が介護現場を変えた!

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利用者の人生を知らない介護現場―聞き書きで人生を知ると介護が変わる―

   介護現場では、意外なほど、利用者がどんな人生を歩んできたのかということは知られていないという。ケアマネジャーが作成したアセスメントシートには、既往歴や家族関係等は載っているものの、生活歴については現役時代の職業等、限られたことしか書かれていない。その人の生き方を知るための手がかりがないまま介護をしているのが現実だというのだ。

   しかし、聞き書きを進めていくと、それまで援助の対象でしかなかった利用者がその生き方とともに立体的に浮かび上がり、介護スタッフは、長い人生を歩んできたひとりの人間として初めて向き合うことができるようになるという。手のかかる存在でしかなかった認知症の利用者が、尊敬すべき人生の大先輩と思えるようになり、愛おしくなるというのだ。

   前述の靖子さんの「人生すごろく」の創作者(羽柴さん=すまいるほーむの看護師)は、著者に対して、創作の動機を次のように語っている。

「なんで靖子さんのすごろくを作ろうって思ったんだろうって考えたんですね。それでわかったのは、私、靖子さんが苦手だったんだって。何度も何度も同じ話を繰り返すし、すぐに不機嫌になったり、怒り出したりするし。なんていうか、持て余していたっていうか、私もイライラしていたと思うんです」
「靖子さんとの間を埋めるために、苦手であることを遊び心でもってプラスに変えていくために、靖子さんのすごろくを作ったんだって、今思えばそうだったんですよね」
「(すごろくを作って)靖子さんを受け入れられるようになった。やっぱり介護をしている家族もそうですけど、職員だって苦手な人とか嫌だなと思うこととかあるじゃないですか。でもそのままの気持ちだとお互いに辛いから、避けるんじゃなくて逆転の発想で、聞き書きして、それをこういうすごろくみたいな形にして笑いとか遊びに変えていけば、仕事も楽しくなるんじゃないかなって思います」

   羽柴さんのこうした正直な告白に著者は深く共感し、聞き書きの意義を再認識する。

「聞き書きというケアとは異なる視点を介してその利用者さんと向き合うことで、利用者さんへ愛情を抱くことができたのである。そういう意味では、介護現場での聞き書きとは、利用者さんとの関係を結び、愛情を抱くための方法だということもできるかもしれない」

【霞ヶ関官僚が読む本】現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で「本や資料をどう読むか」「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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