53種類以上の植物由来の素材を厳選し、3年3か月以上、長期発酵・熟成させてつくる「万田酵素」で、健康食品事業やスキンケア事業などを展開する万田発酵。テレビなどの通信販売ではすっかりおなじみだが、そんな万田発酵がミャンマーの「稲作」を支援しはじめて3年目を迎えた。
「万田酵素」を開発する過程で培ったノウハウを生かして製造した「万田31号」は農業用特殊肥料として有効で、これを使って同社は自身がもつ農業技術や知見をミャンマーの農業に「移植」しているのだ。
万田発酵の松浦良紀社長に話を聞いた。
発酵のもつ力を農業に応用
―― ミャンマーで「稲作支援プロジェクト」を進めています。どのようなことがきっかけだったのでしょうか?
松浦社長 「『ミャンマープロジェクト』をはじめて3年目になりますが、とにかく現地の人々はやさしく、心がきれいなんですよ。まず、そこに驚きと感動がありました。わたしは2か月に1度、進捗状況を確認しに行くのですが、(ミャンマーが)好きになってしまったんですね。
ミャンマーは国民の約7割が農民です。なかでもエーヤワディ管区は3.5万平方メートルに、666万人が暮らしていますが、稲作収入が安定せず、貧困に苦しむ人が少なくありません。それでも明るく生きていますし、『生きる』ことへの一生懸命さが伝わってきます。そんな現地の人たちが目の前で困っている。わたしどもには、そんな人たちを支援できる、課題の解決に貢献できる製品や技術があります。ミャンマーの米づくりの収量アップ、ひいては生活水準の向上を絶対にやらなければならないと感じました」
―― どのような取り組みなのでしょうか。
松浦社長 「ミャンマーへは年に数回、1回あたり役員や部門長を含めて10人程度を派遣しています。当社の米づくりのプロフェッショナルが技術を指導、伝授して支援しています。
米づくりが盛んなエーヤワディ管区ですが、農業技術は日本の数十年前のレベルで、収量は多くありません。十分な収入を得られない農家も多くありました。まずはそれを引き上げようと、試験的に『万田31号』を使用したところ、1エーカーあたりの収量が約2倍に増えたのです。
その後、他の農家に協力してもらい、『万田31号』の使い方や収量アップのための農業指導や勉強会を繰り返しました。また、国家レベルでの農業技術の向上にも貢献。今年(2015年)からは協力農家への指導を続けながら、ミャンマーの農業・灌漑省とともに農業試験を6か所で行っています。最近は、プロジェクトがようやく認知されてきたと、実感しています」
―― 「万田31号」の特徴と、ミャンマーでどのような効果をもたらしたのか。教えてください。
松浦社長 「『万田31号』は農薬ではありません。発酵のもつ力を農業分野に応用した、植物が本来もっている生命力を引き出す『特殊肥料』です。万田酵素を開発する過程で培ったノウハウを生かして製造したもので、黒砂糖をベースに41種類の果実類や穀類、海藻類などを原料として、発酵と熟成を繰り返して3年以上の歳月をかけてつくりました。ミャンマーでは『万田31号』を使うことで、米に臭みが抜けて食べやすくなりました」
「万田31号」は「魔法のクスリ」のようなもの
―― 「ミャンマープロジェクト」の支援で、現地の人々になにか変化は現れましたか?
松浦社長 「当初は『この日本人はいったい何をやるのだろう』と、半信半疑でしたね。ただ、勉強会や説明会を重ねていくうちに、『この方法であれば、米の収量が上がる』と確信に変わっていったようですし、わたしどもとの信頼関係も深まりました。
現地の人たちにしてみれば、『万田31号』を使ったことで、米の生育が進み、収量が約2倍にアップしたのですから、『魔法のクスリ』のように見えたのでしょう。日本の水田ように、適切な間隔で苗を植えて農業用資材を活用することで青々した田んぼが広がるようにもなりました。刈り入れは手作業で大変ですが、米の収量がアップして品質も向上していることが実感できるようになったことで自信がつき、目の色が変わってきました」
―― プロジェクトに携わった社員のようすに変化はありましたか?
松浦社長 「物事の見方が変わりましたね。日本で当然のことがミャンマーでは当然ではない。そんなことが山のようにありますし、日本からみるミャンマーはもちろん、ミャンマーからみる日本を知ることで、考え方や生き方は大きく変わるはずです。
新卒者を研修として派遣していますが、ミャンマーでは働く喜びや、人のために、世の中のために貢献することを体感できます。そういったことを、若いうちに感じ取ってもらうだけでも社員にとっては大きな収穫だと思いますし、帰国すると一人ひとりがいろいろな場面で『役に立ちたい』という想いを強くしているように感じています」
―― 「ミャンマープロジェクト」を、今後どのように育てていくのでしょう?
松浦社長 「現在は自社農場を運営し、現地のニーズにあわせた最適な米づくりを実験しています。その一方で、支援活動を継続するには、ビジネスとして成立させる必要性を感じています。引き続き現地に即した米づくりを行い、展開していきたいと考えています」