月の光どころか太陽のように燃える思いで...
ベートーヴェンが、月のことを考えていなかったとしたら、何を考えていたのでしょうか? この曲は、イタリアの伯爵令嬢で、ベートーヴェンのピアノの生徒であった、ジュリエッタ・グッチャルディに献呈されています。作曲当時31歳だったベートーヴェンに対して、令嬢はまだわずか17歳と、14歳も年下でしたが、どうやら、彼は恋心を抱いていたようです。身分の差から結婚は望みえぬこと、と自覚していたらしいベートーヴェンは、かなわぬ思いをこの曲に込めた、とも言われています。
とすると、創作である『月光ソナタ物語』も、少女が登場するお話ですから、あながち、由来の無いこととも言えないのかもしれません。ベートーヴェンは、風流に月の光を眺めていたのではなく、燃える思いを持って、ある女性を見つめていたのです。
本田聖嗣