インパクトのあるタイトルは2015年の流行語になったといえるだろう。NPO法人の代表を務める藤田孝典さんの著書「下流老人 一億総老後崩壊の衝撃」(朝日新書)が話題を集めている。
貧困にあえぐ高齢者たちの現状には「甘え」「自己責任」といった厳しい言葉が向けられがちだが、著者は現役世代や若者たちにも決して無縁ではない、と指摘する。
「健康で文化的な最低限の生活」が送れない
著者は生活に困窮する人たちの支援を目的としたNPO法人を運営し、そこで貧困にあえぐ高齢者たちのリアルな実態に接している。
電気代を気にしてエアコンをつけず熱中症になる人、家族も友人もなく1日中テレビを見ている人、持病があるのに医療費すら払えない人。国が定める「健康で文化的な最低限の生活」を送ることができない高齢者を、著者は「下流老人」と呼ぶ。
同書では多くの下流老人の悲惨な現状が取り上げられているが、日本社会の彼らへの理解は進んでいない。ネットを中心に、彼らに向けられるのは「甘え」や「自己責任」といった、惨状にさらに鞭打つような言葉ばかりだ。
藤田さんのもとへ相談に来た老人たちは誰しもが「自分がこんな状態になるなんて思いもしなかった」と口にするという。元気なうちは正社員としてバリバリ働いて、貯蓄もあった。しかし自身の病気や事故、親の介護など「想定外」のできごとで、あっという間に暮らしが立ちいかなくなったケースは多い。相談者たちは決して「特別変わっている人ではない」のだ。
著者は無関心、他人事でいる現役世代に向け、警鐘を鳴らす。年金減額や非正規雇用の拡大、老後を支える家族制度の崩壊など、生活不安が増すとみられる将来に高齢期を迎える人たちで「年収400万円以下は下流化のリスクが高い」と指摘。「下流老人はまぎれもなく『わたしたち』の問題である」と述べている。
同書は豊富な事例紹介だけではなく、統計を使った分析も行われ、解決に向けた提言も盛り込まれた。著者が繰り返す「下流老人を生んでいるのは社会である」という指摘は、現役世代にとっても重く響くだろう。