何かを起点として生まれる人間と人間のダイナミックなつながり
本書は他にも、愛媛県上島町弓削島(上島町は、過疎が進み、増田寛也氏編著の「地方消滅」においては「消滅可能性が高い」とされているところである。)の「レモンポーク」(文字どおりレモンの絞り滓を餌にしている。)や尾道市向島の帆布の再興に取り組む人々の営みも紹介している。先述の日生の例でもそうだが、こうした事例に共通するのは、何か(日生で言えば「アマモ」、向島で言えば「綿花」)を起点として生まれる人間と人間のダイナミックなつながりである。先の日生の事例では、日生の漁師とアマモの生態を研究してきた研究者がつながり、「里海」は「SATOUMI」となり、里海の国際会議が開催されるまでになっている。
東京への一極集中や地方経済の疲弊が言われて久しい中、政府は「地方創生」に向けた様々な取組を展開しているが、こうした取組は、ともするといくつかの成功事例がいわば方程式のようになってしまう虞もある。もちろん、数多くの事例の中から共通項を見いだし、成功事例を「横展開」するための方程式を提示することも重要な作業であるが、それだけに頼っていいものでもない。忘れてはいけないのは、それぞれの地域の人々の営みへの視点であり、また、その地域の人々の相互作用こそが地方創生の原動力になるのだと思う。少子化や高齢化、我が国の財政状況等、データを見れば見るほど閉塞感を感じるときもあるが、本書で紹介された事例を見て、「人と自然が手を携え、支えあい癒やし合っていけば、」あきらめるのはまだ早いのではないか、まだまだできることがあるのではないかと考えさせられる一冊であった。
銀ベイビー 経済官庁 Ⅰ種