◆磯田道史著「無私の日本人」
本書は、無名ながら稀有の廉潔さを示した三人の江戸人の評伝である。
内村鑑三「代表的日本人」、宮本常一「忘れられた日本人」と本書を併せ"日本人三部作"と言うと、流石に褒め過ぎだろうか。
古人を甦らせる
著者は史学専攻の研究者だが、本書は古文書に関する論文では無論ない。まるで見てきたかのように活き活きと人々の言動を紡ぎだす「ものがたり」だ。歴史の彼方に消え去った古人を現代に甦らせる著者の力量は「武士の家計簿」で実証済だが、更に磨きがかかった印象である。
本書が紹介するのは、穀田屋十三郎(こくだやじゅうざぶろう)、中根東里(なかねとうり)そして太田垣蓮月(おおたがきれんげつ)の三人。いずれも知らぬ名前であったが、蓮月はWikipedia(ウィキペデイァ)に載っている。歴史を紐解けば、高名無名を問わず文字通り星の数ほど偉人がいたことを実感させられる。