強い危機感の不在は"戦前"と同じ
加藤氏の「敗戦後論」は論壇で大変な話題となったが、日本の論壇の常として、論戦はかみあわないままに終わった。しかし、本書を救い出したのが、まさに、伊東氏の「戦後論 日本人に戦争をした『当事者意識』はあるのか」(平凡社 2010年7月)である。
伊東氏は、戦後の思想に「当事者意識」の欠如、即ち、彼の言葉でいうと、戦後知識人の思想は戦争をレギュラーで戦ったのではない「補欠の思想」だという。確かに「補欠の思想」では、日々の生活から、「知識人」の思想を見すかす庶民を納得させられないだろう。
また、伊東氏は付言する。「現在において、本書でいう『当事者意識』の欠如をもっとも問うべきは、日本国の借金の問題であるかもしれない。大東亜戦争(太平洋戦争)と同じく、国家が破綻に向かっていても、国民一般に必ずしも強い危機感があるわけではない。そして、実際に国家の財政が破綻したときには、国民ひとりひとりにそのことについての『当事者意識』はなく、こぞってその責任者さがしをするであろう。その意味で、逆に、国家の借金の問題やこの先にありうる破綻の想定から、半世紀前の戦争についての『当事者意識』の欠如の問題をある程度リアルにイメージすることも可能である。」と。
経済官庁(総務課長級 出向中)AK