DIDを軌道に乗せるまでの様々な苦労―社会的企業の「起業物語」―
本書は、社会的な活動を立上げ、事業として軌道に乗せるまでの「起業物語」としても面白い。
・前例のない事業には、規制の壁が立ちはだかる。DIDの場合、「誘導灯」の点灯を義務付ける消防法をクリアするのが大変だったという。開催拠点が変わるたびに管轄する消防署との交渉に苦労した話が幾度も登場する。
・場所の確保にも苦労したという。元々、暗くして使うことに違和感を持つ施設のオーナー達は、スタッフの65%が視覚障害者であると知ると、ますます尻込みしたそうだ。
ちなみに、純度百パーセントの暗闇を作るのは至難だという。また、同じ真っ暗な闇でも本当に墨を流し込んだような漆黒の闇と、粒子の粗いざらざらとした暗闇があるそうだ。かすかな光もない暗闇を作ることは非常に繊細な作業のようで、季節ごとの太陽の位置にも影響されるという。
・当初10年間の臨時イベントの時代は、開催期間が限られていたこともあって、チケットの売れ行きに悩むことはなかったそうだが、常設となり、オープンから1カ月が経過すると、体験希望者が減り難渋したという。
「サザンオールスターズだって、一年中、毎日コンサートをやっていたらお客さんが入らない日が出てきてもおかしくない」
この厳しい試練を、アテンドも交えて、洗いざらい事情を話し、「傍観者から当事者へ」とスタッフの意識改革を進めていった話は、組織を動かすことの極意を教えてくれる。
東京だけでなく、大阪でも拠点がオープンし、DIDもようやく定着しつつある中で、著者の構想は壮大だ。