「西欧派」の郷愁か
10年にわたる西ヨーロッパ――特に彼はイタリアとフランスには居住したので、両国は特に気に入っていたようですが――での長期滞在の最初の年、1878年にスイスにて着想されたのが有名な「ヴァイオリン協奏曲」ですが、その2楽章としてもともと企画されたのが、「懐かしい土地の思い出」の第1曲となっている「瞑想曲」でした。ヴァイオリン協奏曲のためには最終的にカンツォネッタ――これもイタリアの影響でしょうか――という2楽章を作ったため、この瞑想曲は単独で別の曲となり、そこに第2曲・スケルツォ、第3曲・メロディーという曲を合わせて、3曲からなる「懐かしい土地の思い出」という15分ほどのピアノ伴奏のヴァイオリン曲として仕上げられました。スイスで着想されたものですが、最終的に仕上げる段階で、メック夫人のウクライナ・ブライロヴォの別荘に滞在させてもらったため、その土地を懐かしんで、このような名前をフランス語でつけたといわれています。既に西ヨーロッパを満喫していたチャイコフスキーにとって、ウクライナの地が「懐かしい土地」に思われたのかもしれませんね。
現在では、チャイコフスキーらしい甘いメロディーにあふれたこの曲集は、組曲としても、単独曲としても、良く演奏されるレパートリーとなっています。また、他の作曲家によって、伴奏がオーケストラアレンジされたものも存在します。
本田聖嗣