クラシックの枠組みの中で初の「アメリカの音楽」
ボストンでの試験興行のあと、ニューヨークで、このオペラは初演されました。シアター・ギルドとの契約により、オペラの殿堂メトロポリタン歌劇場ではなく、ブロードウェイの劇場での上演でしたが、オペラには不慣れな劇場で、しかもキャストも全員黒人――逆に製作チームは演出も指揮者も全員白人でしたが――というチャレンジングな状況で上演され、大方は好意的に迎えられたものの、彼のそれまでのミュージカルのような大ヒットとはなりませんでした。オペラを期待した人からは、ミュージカル的すぎる、といわれ、ミュージカルに慣れ親しんだ人たちには、本格オペラの構造が理解されませんでした。結局、クラシックと、「アメリカ音楽」双方に情熱を燃やしたガーシュウィンの最も重要な作品でありながら、本格オペラとして上演される機会は少なく、反対に、オープニングの序曲の後にすぐ歌われ、劇中になんども登場するアリア、「サマータイム」がジャズのスタンダードナンバーとして、広くポピュラー歌手たちによって歌われ世界中で親しまれています。
本来、この曲は、ガーシュウィンが、オペラというクラシック音楽の枠組みの中で、初めて、高らかに「アメリカの音楽」を歌い上げたナンバーだったのです。
本田聖嗣