交響組曲「シェエラザード」
猛勉強の甲斐あって、彼は、5人組の中でも「管弦楽法の大家」といわれるようになり、ボロディンやムソルグスキーといった仲間の作品のオーケストレーションも担当するようになります。生徒も、ストラヴィンスキーやプロコフィエフといったロシア次世代のホープや、遠くイタリアのレスピーギなど、いずれもオーケストラ作品で名曲を残す人たちを門下から輩出します。
交響組曲シェエラザードは、「千夜一夜物語」アラビアンナイトの世界を原作とする交響組曲です。ロシア的な音楽をつくるために、彼はアラビアの素材を選んだわけですが、仲間のボロディンのオペラ「イーゴリ公」の完成を手伝ったのが、「アジア的ロシア」に目を向かわせるきっかけだったともいわれます。暴君シャリアール王と、彼を最終的に改心させる物語の語り手、シェエラザード妃にそれぞれ、金管楽器とヴァイオリンで旋律をあたえ、各楽章の間をつなぐように、演奏されるようになっています。まるで、「今晩のお話は...とシェエラザードが王に語り掛けているかのようです。それぞれのエピソードは必ずしも原典に基づいておらず、リムスキー=コルサコフがいくつかの話をミックスしたと思しき題名の楽章もありますが、第1楽章の「海とシンドバットの冒険」は、原作にある有名な船乗りの物語です。大海原の様子を低弦楽器によるダイナミックな伴奏型で表していますが、このオーケストレーション方法は、大変効果的だったため、その後クラシック音楽のみならず、映画音楽などでも数多く使われています。航海が本職だったリムスキー=コルサコフは、自分の音楽の代表作にも、素晴らしい海の情景を盛り込んだのです
本田聖嗣