「危険不可視社会」(畑村洋太郎著、講談社)
■本書の来歴
もう10年以上も前のことだが、六本木ヒルズの回転ドアに6歳の男の子が頭を挟まれて亡くなるという、実に痛ましい事故があった。
この事故を契機に、著者は有志企業等とともにあらゆるドアにひそむ危険を洗い出す「ドアプロジェクト」を立ち上げ、更にその検証を他分野にも広げ「危険プロジェクト」として発展させたという。本書はその成果をまとめ5年ほど前に出版されたものだ。
高度化した科学技術が生活に浸透するにしたがい、人命は目に見えない新たな危険に曝されるという。本書は、その危険が「不可視」となってきた構造を論理的に説明し、処方箋を提示する。
危険の除去への具体的な動き
危険が具体的に認識されれば、当然その回避に向けた取り組みが開始される。
例えばエスカレータだ。プロジェクトのメンバーであるJR東日本は「(危険を)知っているのに何もやらないままにしてはいけない」として、「みんなで手すりにつかまろう」キャンペーンを実施するとともに、「管内全てのエスカレータのブレーキ力を倍にして逆走を起こりにくくするとともに、転倒を引き起こす不必要な急停止をなくすために、従来より感度を若干鈍くするなどの改造を進めて」きたという。
浅はかな評者はこのキャンペーンを「余計なお世話」と感じていたが、危険プロジェクトが行ったダミー人形による実験により、エスカレータ緊急停止時の落下は重傷以上の危険があると知らされ、不明を恥じた次第である。