穏やかな「歌曲の王」の激しさ際立つ異色の作品

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最も硬派な作品の一つ

   調が異なったり、テンポが異なったりしているので、この曲は、本来は4つのパート、つまり「楽章」に分けられるはずなのですが、シューベルトの指示では、全体を切れ目なく演奏することになっている点も、特殊です。そして、メロディーやリズムの展開の方法も、「ソナタ形式」に近く、実質4楽章の構成を持つ「ピアノ・ソナタ『さすらい人』」とシューベルトが名づけていたとしても、まったく不思議ではない曲なのです。

   しかし、それらの「通常のスタイル」をシューベルトは選択しませんでした。あえて、ソナタではない、1つの大きな作品「幻想曲」として完成させることによって、シューベルトのピアノレパートリーの中で、最も硬派な作品の一つが出来上がったのです。困難に立ち向かう主人公がさすらいの旅に出る・・・ロマン派文学に登場する多くのパターンを彷彿とさせる、大いなる「幻想曲」だったのです。

    ちなみに、この曲を素晴らしいと感じたのが、ロマン派の後輩にして名ピアニスト、フランツ・リストです。「さすらい人幻想曲」を、彼は協奏曲や連弾曲に編曲しましたし、彼自身の「ピアノ・ソナタ ロ短調」が、実質3楽章を持つにもかかわらず、切れ目なく演奏することになっている...のも、この曲の影響だといわれています。

本田聖嗣

毎週火曜日掲載

本田聖嗣プロフィール
私立麻布中学・高校卒業後、東京藝術大学器楽科ピアノ専攻を卒業。在学中にパリ国立高等音楽院ピアノ科に合格、ピアノ科・室内楽科の両方でフプルミエ・プリを受賞して卒業し、フランス高等音楽家資格を取得。仏・伊などの数々の国際ピアノコンクールにおいて幾多の賞を受賞し、フランス及び東京を中心にソロ・室内楽の両面で活動を開始する。オクタヴィアレコードより発売した2枚目のCDは「レコード芸術」誌にて準特選盤を獲得。演奏活動以外でも、ドラマ・映画などの音楽の作曲・演奏を担当したり、NHK-FM「リサイタル・ノヴァ」や、インターネットクラシックラジオ「OTTAVA」のプレゼンターを務めるほか、テレビにも多数出演している。日本演奏連盟会員。

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