目の見えない人が体験している驚きの世界

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   ■「目の見えない人は世界をどう見ているのか」(伊藤亜紗著、光文社新書)

   2月に、周防正行監督の映画「舞妓はレディ」をバリアフリー・バージョンで観た。目の見えない人のために音声ガイドを、耳の聞こえない人のために日本語字幕を付けた作品である。

   バリアフリー版を希望する者は、ゴーグルを着けヘッドフォンをかぶる。耳からは役者のセリフなどとともに各場面の解説が流れ、眼前のゴーグルには字幕が映し出される(もちろん、ゴーグルだけ使用することもできるし、ヘッドフォンのみ付けることも可能だ)。

   最初は、情報過多でうっとうしいと感じたものの、慣れるにつれて、いつもとは違う感じで映画を観ている自分に気付いた。脚本のト書きのような場面解説を聞きながら、目をつむり、まるで本を読む感じで映像場面を想像したり、耳に入ってくるセリフと眼前の字幕の違いから要約の妙に感心したり、実に面白い体験だった。

   目が見えない人が「映画を観る」なんて、悪い冗談かと思う方もいるかもしれないが、実際、このバリアフリー映画を体験してみると、映画はただ「観る」ことが唯一の見方ではなく、いろいろな楽しみ方があることがわかる。視覚障害者や聴覚障害者は、自分とは全く違う風に「映画を観ている」ことに気付かされた。

  • 目の見えない人は世界をどう見ているのか
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世界を違ってとらえているだろうと探究

   本書は、目の見えない人がこの世界を実際どのように感じているのかをわかりやすく教えてくれる。友人から「面白いよ」と紹介されたのだが、読みながら、ちょうど、このバリアフリー映画体験を思い出した。

   本書の著者は晴眼者。元々は生物学者を目指していたが、大学3年次に美学に転じ、「わかっているんだけど言葉にできないもの」をすっきりと納得したいとの思いが昂じて、生物学と美学の接点としての「体」に辿り着いた。しかも、従来の身体一般を論じた身体論では飽き足らず、生物の種が違えば体のつくりが違い、つくりが違うから世界のとらえ方が違うように、人間でも、ちょっと違う体の持ち主(視覚障害者)は、世界を違ってとらえているだろうと探究したくなったという。

   本書では、著者が研究の過程で親交を結んだ視覚障害者に密着する中で、見えない人の感じ方などについて、筆者自身が気付き、考えたことを伝えている。目の見えない人と「友達」や「近所の住人」のような関係でいたいという筆者の素朴な思いを出発点とするだけに、その内容はリアルであり、新鮮な驚きに満ちている。

【霞ヶ関官僚が読む本】現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で「本や資料をどう読むか」「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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