妄想が生んだ異色の交響曲

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失恋のつらさを作曲への情熱に

   そして、その失恋のつらさを作曲への情熱として、彼は、怪作「幻想交響曲」を創り上げるのです。一人の青年が失恋し、恋人を殺めて断頭台で処刑され、そのあとに魔女がパーティーを開くという、おどろおどろしいストーリを創り上げ、それに沿う形で交響曲を作曲し、各楽章にタイトルとして説明的な文章をつけます。初期の演奏会では、プログラムノートを必ず添付するようにとも指示しています。「幻想」というタイトルを交響曲につけて、「この物語はフィクションです。」と断ってはいるものの、自分の失恋をモデルとして、包み隠さず曲にしてしまったわけですから、彼の開き直りは相当なレベルです。

   ただ、完成した交響曲は、単なる「誇大妄想的作品」では、ありませんでした。作曲技法を既にしっかりと身につけていた彼は、曲の中で、恋人の存在を表すメロディーを固定化して、「旋律で、特定の人物や物事を表す」という後世の作曲家にとっては当たり前の技法を最初にとりいれていますし、古典派時代の交響曲の編成から大幅に人数を増やしたオーケストラ用の作品とすることで、その後の巨大管弦楽への道筋もつけます。さらに、交響曲にタイトルをつけることによって、もう少し後に発明される「交響詩」というジャンルのお膳立ても無意識に行っていました。

   一人の孤独な青年の暗い情熱から、次の時代を予感させるような、巨大な交響曲が出来上がったというわけです。そして、この曲はその派手さのおかげか、今でも大変な人気曲で、フランス人の作った交響曲として、もっとも多く演奏される作品の一つとなっています。

本田聖嗣

本田聖嗣プロフィール
私立麻布中学・高校卒業後、東京藝術大学器楽科ピアノ専攻を卒業。在学中にパリ国立高等音楽院ピアノ科に合格、ピアノ科・室内楽科の両方でフプルミエ・プリを受賞して卒業し、フランス高等音楽家資格を取得。仏・伊などの数々の国際ピアノコンクールにおいて幾多の賞を受賞し、フランス及び東京を中心にソロ・室内楽の両面で活動を開始する。オクタヴィアレコードより発売した2枚目のCDは「レコード芸術」誌にて準特選盤を獲得。演奏活動以外でも、ドラマ・映画などの音楽の作曲・演奏を担当したり、NHK-FM「リサイタル・ノヴァ」や、インターネットクラシックラジオ「OTTAVA」のプレゼンターを務めるほか、テレビにも多数出演している。日本演奏連盟会員。

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