「殺虫剤とカニの関係」で感じた法規制の難しさ
評者が特に着目したのは、殺虫剤とカニの関係だ。
人体への影響を軽微にするために、最新の殺虫剤は昆虫の脱皮を阻害するタイプのものとなっているそうだ。なるほど哺乳類には無害かもしれないが、これがカニの脱皮をも阻害するという。泥地を掘り返すカニは水辺の植物の根に酸素を行き渡らせる役割を担っており、その減少は生態系に大きな打撃となるらしい。新たな殺虫剤が新たな環境破壊を生んでいる例と言えよう。
レイチェル・カーソンの名著「沈黙の春」以来、農薬の規制は経済合理性と環境維持の調和を意識して策定されてきているが、仮にこのような副作用をも事前に想定するとすれば、相当な人員での徹底したリサーチが必要となろう。
技術革新は日進月歩で、その変化のスピードは加速する一方だ。規制もそれにつれて機動的に改廃しなければ、国民は安全な形で新技術の恩恵を受けられない。先進諸国と比較して職員数が圧倒的に少ない日本の中央省庁に、そうした規制改変を続ける余力があるだろうか。関係業界と政治の調整に奔走せざるを得ない幹部、国会対応で消耗戦を余儀なくされる若手という霞が関の現況からすると、暗然とさせられる。