「真のドイツオペラ」めざしたウェーバー
ウェーバーは音楽家として成長し、ピアニストとして、またオペラの指揮者として活躍します。小さな歌劇場からキャリアを出発し、ザクセン王国のドレスデンで歌劇場音楽監督を務めている時、「真のドイツオペラ」を作ることを思い立ちます。
ドイツに伝わる民話をもとにした小説を台本の基礎とし、舞台は当時ドイツ領だったボヘミアの森、という設定が非常にドイツ的、さらに、「魔弾」をあつかう猟師が主人公で、勇壮な狩人たちの合唱が出てくるところも、イタリアとは明らかに違う、「ドイツ風」の設定でした。専門的には、語りの部分も「レシタティーヴォ」といって旋律をつけてしまうイタリアオペラスタイルではなく、純粋にセリフとしてはなす「ジングシュピール」という形式――もちろん、地元のドイツ語を使用しているわけですから、観客はそのまま理解できるわけです――にしてあり、これははっきりと、イタリアオペラとの決別を宣言している様式でした。
さらに、ウェーバーが計画的だったのは、この「とてもドイツ的なオペラ」を、地元ドレスデンではなく、もっとも支持されそうなプロイセン王国のベルリン――のちに「統一ドイツ」の首都になる都市――で、初演することを決意したことでした。彼の目論見どおり、このオペラは、ベルリンで熱狂的フィーバーを巻き起こし、以後記録的な上演回数を重ねます。そして、「ドイツオペラを確立した作品」として、記憶されることになったのでした。
熱狂した観客の中には、当時まだ10歳になっていなかった少年リヒャルト・ワーグナーも含まれていました。彼もまた作曲家として「とてもドイツ的な歌劇」を作ることになるのですが、その話は、またの機会に書くことにしましょう...。
本田聖嗣