5月17日に、大阪市で行われた「大阪都構想」の住民投票は、橋下大阪市長が長らく提唱してきたこの構想を僅差で否決した。具体案である「特別区協定書」の策定前ではあるが、「公共経営の再構築 大阪から日本を変える」(上山信一著 2012年9月 日経BP社)や「体制維新―大阪都」(橋下徹・堺屋太一著 2011年10月 文春新書)などが、提唱者たちの考えを知るのに手ごろだ。「体制維新」の最後の部分では、橋下氏が、「では市民はどうかというと、『橋下さん、大阪都構想はええけど、それで私らの暮らしはどうなんの?』『もうそんなことどうでもええから、保育料何とか下げてよ』という話になる」として、市民に身近ではない、統治機構の変革の難しさを懸念していた。地方自治分野の有力専門誌「日経グローカル6月1日号」(日経 産業地域研究所)は、記事「ニュース&インサイト・『大阪都構想』否決の舞台裏」で、橋下氏が、政治生命をかけた大勝負で「看板政策の都構想の意義を高齢者層を中心に浸透させることができ」なかった限界を冷徹に見つめる。
「大阪市役所」の解体を望む市民の批判の根強さも再認識させられたが、産経新聞の看板コラムの「正論」(5月25日付)で、エコノミストの吉崎達彦氏が正当に指摘するように、大阪の再生は、「むしろ民間部門の責務」であるが、その兆しはいまだよく見えない。
「大都市制度」の考察深める必読の1冊
だが、「大阪都構想」により、今後において死活的に重要な「大都市制度」に光があたり大変喜ばしい。この問題について、冷静に考察を深める上で必読の1冊が、気鋭の行政学者、砂原庸介阪大准教授の「大阪―大都市は国家を超えるか」(中公新書 2012年11月)だ。
「本書では、『大阪』というフィルターを通して、日本における大都市の問題を議論」されており、「従来の『国土の均衡ある発展』という理想の実現が難しくなるなかで、経済成長のエンジンとなる大都市をどのように扱うべきか」を考察している。大阪の歴史を丁寧に踏まえれば、「大阪都構想」もこれまでの議論の延長線上の話とわかる。
この構想にもある、都市経営を行う強いリーダーシップを支える権限・財源の集中の論理と、民間主導の「小さな政府」という自由主義的な改革の論理の相克を的確に指摘する。
また、砂原氏の新著「民主主義の条件」(東洋経済新報社 2015年4月)の「第8章 てんでんバラバラー多様な地方政治」にもあるが、個別利害に拘泥している議会との関係で、首長が自治体全体の利益を代表して行動することができずにいる機能不全を、地方議会における政党政治を創出することによって克服するという改革の方向性が示唆深い。