同じナポレオン戦争を描いて人気に大差が生じた理由

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"歴史"の作品化だった「大序曲 1812年」

   クラシックにおける欠かせない作曲家2人によって、似たような経緯で作曲され、曲の構成も似ていて、本人が最初「依頼によりしぶしぶ書いた」と考えていた、というところまでそっくりな2曲なのに、どうして、人気にこれほどの差が出てしまったのでしょうか?

   一つは、ベートーヴェンの曲は、戦争のすぐあと時代にかかれているのに対し、チャイコフスキーの曲は、実際の戦闘より、約70年後の作品だということ。この連載でも取り上げた「トルコ行進曲」が、実際のトルコ侵攻から約1世紀後に書かれているということを考え合わせると、題材が歴史になってからのほうが、作品としては、成立しやすい、といえるのかもしれません。現在のことを描いて歴史と共に忘却されかけたベートーヴェンの作品に対し、ロシアの輝かしい歴史を、半世紀以上あとの時代に題材にしたチャイコフスキーの作品は、成立した時点で、歴史の荒波に耐える力を持っていたのかもしれません。

   また、作られた時代も違います。ベートーヴェンは「古典派」と呼ばれる時代、チャイコフスキーは、「ロマン派」時代の人です。前者に対し、後者の時代は、オーケストラというクラシック音楽最大のアンサンブルが発展して大きくなっていました。

   今日と同じく、迫力あるオーケストラサウンドを演奏会場で聴くことが出来るようになった19世紀後半に登場した「大序曲 1812年」は、最初から、人々が、曲の魅力に気づかされる迫力のサウンドで演奏されたのです。

   長い歴史を持つクラシック音楽の中には、このように、人気の明暗を分けるようなエピソードを持った曲たちがあります。

本田聖嗣

本田聖嗣プロフィール
私立麻布中学・高校卒業後、東京藝術大学器楽科ピアノ専攻を卒業。在学中にパリ国立高等音楽院ピアノ科に合格、ピアノ科・室内楽科の両方でフプルミエ・プリを受賞して卒業し、フランス高等音楽家資格を取得。仏・伊などの数々の国際ピアノコンクールにおいて幾多の賞を受賞し、フランス及び東京を中心にソロ・室内楽の両面で活動を開始する。オクタヴィアレコードより発売した2枚目のCDは「レコード芸術」誌にて準特選盤を獲得。演奏活動以外でも、ドラマ・映画などの音楽の作曲・演奏を担当したり、NHK-FM「リサイタル・ノヴァ」や、インターネットクラシックラジオ「OTTAVA」のプレゼンターを務めるほか、テレビにも多数出演している。日本演奏連盟会員。

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