生前は1番の人気作品も...後世は評価されず
ベートーヴェンは期待に沿って、初版はパンハルモニコン用に書き、その次のバージョンとして、オーケストラに、マスケット銃や、カノン砲まで楽器として加えたド派手な交響曲を作り上げます。2楽章形式で、1楽章が「戦闘」、2楽章が「勝利の交響曲」というこちらも強烈な題名がつけられています。そしてその初演は、指揮がベートーヴェン自身、オーケストラの中には、作曲家として彼とは別に名を残しているサリエリ、フンメル、シュポーア、モシュレス、マイアベーアといった人たちが演奏者として参加したと伝えられていますから、大変力の入った演奏会だったことがうかがえます。
予想にたがわず、この15分ほどの交響曲としては小さな曲は、大ヒットを記録し、ベートーヴェンの生前の1番の人気作品となります。おそらくこの曲で、「ベートーヴェン」の名を知った人たちも多かったと思われます。
しかし、時代が下って、現代、「ウェリントンの勝利」は、「パンハルモニコン」と同じく、存在は知られていても、演奏されることはごくまれです。ベートーヴェンが彼自身の哲学から書いた作品に比べて、依頼で書かれた、いわば「受け狙いの宣伝作品」とみなされたこの曲は、後世に芸術的な価値をあまり認めてもらえなかったのです。
これも一つの「戦争の影響」なのかもしれません。
本田聖嗣