違和感拭い去れないチョムスキーの米政府プロパガンダ論考

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「メディア・コントロール─正義なき民主主義と国際社会」(ノーム・チョムスキー著、鈴木主税訳)

   言語学者にして活発な言論人であり続けたチョムスキーによる、米国政府のプロパガンダに関する論考である。本書には、1991年に発表され既に古典となっている表題の論考ともう1本が掲載され、さらに辺見庸氏によるチョムスキーへのインタビューが付されている。

  • メディア・コントロール─正義なき民主主義と国際社会
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米国のダブルスタンダード

   チョムスキーは、米国における「専門知識を持つ特別階級」がメディアを使い、「愚かで何もできない」大衆すなわち「とまどえる群れ」を誘導して民主主義の「合意のでっちあげ」をしている、と主張する。

   具体例は米国の戦争だ。米政府によるプロパガンダにあっては、ある時は深刻な人権侵害と脅威を理由に独裁者を倒す侵略戦争が正当化され、またある時は友邦国で大量虐殺の事実があってもこれを大衆に知らしめない、とのダブルスタンダードがあるという。著者はこれを厳しく批判する。

   著者の主張には、残念ながら具体的な証拠がほとんど提示されていない。だが論調は挑発的だ。真の権力者を財界と断じ、政府がこれに奉仕し、国民を置き去りにしているとまでいう。左派にありがちな陰謀論とも感じられるが、米国の巨大な軍産複合体を見れば、暴論と片づけるには躊躇がある。福祉が行き届かぬまま相続税廃止など大規模な富裕層減税が行われた共和党政治を糾弾する姿勢は、無政府主義にも傾倒したチョムスキーの思想の来歴に照らせば、いわば確信犯なのであろう。

【霞ヶ関官僚が読む本】現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で「本や資料をどう読むか」「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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