原作が上演禁止だったモーツアルトの傑作オペラ

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軽快なオペラにしたモーツアルト作品、政治色を極力排除

   当然、まだ王家の統治が続いているおひざ元フランスでは上演禁止、そして、ハプスブルグ皇帝ヨーゼフ二世が統治する神聖ローマ帝国でも上演禁止だったのですが、こんな面白い物語はない、と目を付けたイタリア人興行師ロレンツォ・ダ・ポンテによって、モーツアルトが音楽をつけたオペラとしては、上演が可能になったのです。今でも、なぜオペラが上演可能になったかは謎ですが、政治的な風刺であるセリフをなるべく取り除き、男女入り乱れてのドタバタ劇に見えるように仕立てられたからだと思われます。

   「フィガロの結婚」成立には、ボーマルシェの原作をもとに台本も書いてしまったダ・ポンテの「ヒット作を見抜く力」が大いに役立っているのですが、モーツアルトも本格オペラの1作目に「後宮よりの逃走」という題材を選んでいます。オーストリアにとって、敵国かつ舞台はハーレムという「アブナイ」物語、これを選んだりしているので、「フィガロ」のオペラ化に大乗り気であったことがうかがえます。おそらく、他のウィーンで活躍する作曲家は、この物語に音楽を作曲するのを尻込みしたはずです。

   横暴な貴族と、それを機転でやりかえして、ぎゃふんと言わせる才気あふれるフィガロの物語を、複数の恋愛模様を織り込みながら、軽快なオペラにしたモーツアルトの作品は、政治色を極力排除したために、より一層、人々の欲望や才能を感じさせるリアルな「人間模様喜劇」に仕上がったのです。

   結局、そのことが、このオペラを不朽の名作とし、現代でも、モーツアルトのみならずオペラ・レパートリーの代表作として、世界中で愛されています。

本田聖嗣

本田聖嗣プロフィール
私立麻布中学・高校卒業後、東京藝術大学器楽科ピアノ専攻を卒業。在学中にパリ国立高等音楽院ピアノ科に合格、ピアノ科・室内楽科の両方でフプルミエ・プリを受賞して卒業し、フランス高等音楽家資格を取得。仏・伊などの数々の国際ピアノコンクールにおいて幾多の賞を受賞し、フランス及び東京を中心にソロ・室内楽の両面で活動を開始する。オクタヴィアレコードより発売した2枚目のCDは「レコード芸術」誌にて準特選盤を獲得。演奏活動以外でも、ドラマ・映画などの音楽の作曲・演奏を担当したり、NHK-FM「リサイタル・ノヴァ」や、インターネットクラシックラジオ「OTTAVA」のプレゼンターを務めるほか、テレビにも多数出演している。日本演奏連盟会員。

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