9年を経て到達した積極的な思考
著者は22歳となった昨年、「跳びはねる思考―会話のできない自閉症の僕が考えていること―」を出版した。この新著では、タイトルから明らかなように、自閉症者に備わっている感性を積極的に評価し、「普通の人」に対し、これを新しい「自由」だとして提示している。
「僕がエッセイの中で伝えたかったのは、その人しかわからない世界があるということです。物事は、少し見方を変えれば、全く違ったとらえ方ができるのではないでしょうか」
「思考は、どこまでも自由なのです。何の制約を受けることなく、空の彼方に舞い上がったり、深い海にもぐったりすることができます」
そして、今を生きる決意を高らかに表明している。
「障害者は決して不幸ではないと思っていますが、幸せになるためには自分なりの価値観を持つことが重要です。僕は、自分が幸福になるために、これまで何度も自問自答を繰り返してきました。その中で気づいたのは、人がどんな時も前向きでいたいと願っていることです」
「障害を抱えて生きることは、生まれ育った境遇を誰かのせいにするわけもなく、いつか普通になれる希望にすがることでもありません。僕にも、みんなと同じように明日はやってきます。今日の幸せが、明日の幸せにつながることを信じ、今笑顔でいるのが大切なことなのです」
「僕は、僕自身のために生きることを決心しました。社会のルールを守るための練習は続けなければいけませんが、たとえできなくても、落ち込む必要はないのです。毎日の生活の中で重要なことは、注意された今日とは違う明日が来るのを、信じ続けることです」
著者の一連の著作からは、自閉症者がその外見からは想像がつかないほどに、切実な思いを持ち、深く考えていること、そして、本人が学び、考え続けることで、その思考は進化し、発展していくことを教えられた。
これを可能にしたのは、著者本人の努力とともに、著者の本当の思いを知ろうと、諦めることなく、独自のコミュニケーション手段を生み出し、支え続けたご家族や支援者の存在が大きかったと想像する。
著者の存在、そして、一連の著作は、自閉症児・者を持つ保護者にとって、そして、支援者にとっても、大きな希望といえるものだろう。ぜひ、多くの方々に手にとって読んでいただきたい本である。
厚生労働省(課長級)JOJO