「自閉症の僕が跳びはねる理由―会話のできない中学生がつづる内なる心―」(東田直樹著、エスコアール出版部)
本書は、重度の自閉症者である著者が13歳の時に執筆したものだが、その後、アイルランドの著名な作家(デイヴィビッド・ミッチェル、息子が自閉症児)の目に留まり2013年に英訳されベストセラーとなった(20カ国以上で翻訳され、保護者を中心に広く読まれている)。
中学生が書いた200ページに満たない本であり、いつでも読めると思って机上に積んであったが、このゴールデンウイークに手にとって読み始めたら、のめり込んでしまった。昨年に刊行された「跳びはねる思考―会話のできない自閉症の僕が考えていること―」(イーストプレス)も思わず購入し、一気に読んだ。
偶然は重なるもので、連休中にNHKで著者の特集番組「君が僕の息子について教えてくれたこと」が再放送され、本書の価値を再認識した。実に画期的な本である。
会話ができない自閉症者自身が心の内を表現
著者は、重度の自閉症者である。
「僕は、人と会話ができません。人と話をしようとすると言葉が消えてしまうのです。必死の思いで、1~2単語は口に出せることもありますが、その言葉さえも、自分の思いとは逆の意味の場合も多いのです」
「人に言われたことに対応できないし、精神的に不安定になるとすぐにその場所から走って逃げ出してしまうので、簡単な買い物さえも、一人ではできません」
前述のNHK番組「君が僕の息子について教えてくれたこと」に登場する著者は、突然、奇声を上げたり、無関係な言葉を発したり、公道で跳びはねたりと、まさに自閉症特有の振る舞いだった。
しかし、通常の会話ができない著者は、母や支援者との訓練を通じて、文字盤を指差しながら言葉を発したり、パソコンに文字を入力することで、自分の思い、思考を巧みに表現できるようになった。前述の番組を観て驚いたが、外見は重度の自閉症者である著者が、文字盤やパソコンを前にすると、高度な文章表現を次々と生み出す。それも、質問者の問いに見事に対応した内容を、ほぼ訂正不要な形で表現するのである。
衝撃だった。外見からは想像すらできないが、重度の自閉症者である著者が実に多くのことを感じ、考えていることに驚いた。と同時に、自分の思いを表現する術を持たず、その問題行動のゆえに大きな誤解を受けたままとなっている自閉症者の辛い思いを教えられた。
「話したいことは話せず、関係のない言葉は、どんどん勝手に口から出てしまう」
「自分の体さえ自分の思い通りにならなくて、じっとしていることも、言われた通りに動くこともできず、まるで不良品のロボットを運転しているようなものです」
「僕たちのようにいつもいつも人に迷惑をかけてばかりで誰の役にも立てない人間が、どんなに辛くて悲しいのか、みんなは想像もできないと思います。何かしでかすたびに謝ることもできず、怒られたり笑われたりして、自分がいやになって絶望することも何度もあります。僕たちは、何のために人としてこの世に生まれたのだろうと、疑問を抱かずにはいられません」
「僕たちが一番辛いのは、自分のせいで悲しんでいる人がいることです。自分が辛いのは我慢できます。しかし、自分がいることで周りを不幸にしていることには、僕たちは耐えられないのです」
「自分の気持ちを相手に伝えられるということは、自分が人としてこの世界に存在していると自覚できることなのです。話せないということはどういうことなのかということを、自分に置き換えて考えて欲しいのです」