サムライ・デモクラシー
この戦前民主主義の嚆矢にして一夜の夢とも言うべき位置に、著者は「サムライ・デモクラシー」を据える。これは第一回帝国議会議員選挙の様子、即ち、
・公平無私に立派な人を選ぶのが選挙であるから、親類や知人であるというだけでの投票さえも不正とされた
・国政を託せる一流の人物を挙げるべく、全国各地が他府県に負けない人物を出そうと競い合った
・立候補は品性下劣とされ、本人が迷惑がる立派な人物が担ぎ出される例が多々あった
――といった状況を指す、著者の造語である。
著者はこうした「お伽噺のような、清廉潔白、人物識見本意、国家社会のためだけという世界」の「清新の気風がそのまま続いていたらば、日本の議会民主主義は世界に誇る清廉潔白、人物本位のサムライ・デモクラシーになっていた」とし、政府が第二回選挙で大弾圧を行ったためにこうした世界が崩れたことを惜しむ。
往時は制限選挙であるし、立候補の積極的意義なども思うと、些か美化が過ぎるとも感じる。だが第一回選挙の投票率93%という事実も加えて考えれば、その熱意と真摯さは、やはり汲むべきところ大である。