未だ混迷が続くギリシャと、早々と金融危機を脱したアイスランド
【ギリシャの場合】
リーマンショックから7年が経つが、ギリシャは未だ立ち上がることができずにいる。
経済危機に際して、ギリシャはIMFから課された緊縮案(財政収支の改善、金融セクターの安定化、構造改革)をそのまま実施した。2009年段階でGDP比13%であった財政赤字を2014年までに3%以下に引き下げるというラディカルな目標だった。
この目標に沿って、医療費や公衆衛生対策費を大幅に減らした結果、医療機関受診率の低下、ウエストナイル熱やマラリアなど長らく見られなかった感染症の発生、HIV感染者の増加、そして、自殺率の上昇など健康指標は悪化してしまった。
こうした犠牲を払ったものの、現在のところ、ギリシャ経済は回復の兆しが見られない。不満を募らせたギリシャ国民は、今年1月の総選挙で、緊縮財政や国営企業の民営化撤回等を主張する急進左派のチプラス政権を選択した。混乱は続いており、出口はまだ見えない。
【アイスランドの場合】
これに対し、史上最悪と言われる金融危機に遭遇したアイスランドは、予想よりも早く危機を脱した。ギリシャ同様、IMFから巨額の歳出削減を求められたが(保健医療関連予算に至っては30%削減)、結局、国民投票を経て、拒否を貫いたのだ。
社会保障支出についても、既存制度の給付水準を維持するとともに、失業や自己破産を防止するため、新たに労働政策の強化や各種債務免除措置を講じ、GDP比21%(2007年)から25%(2009年)へと増額した。歴史的な不況が国民の健康や福祉に与える影響を監視するため「Welfare Watch」と呼ばれる監視委員会も設置した。
結果として、2012年のアイスランド経済は3%の伸びを達成し、失業率も欧州諸国では珍しく5%を切った。同年にはIMFへの返済もスタートし、国債の格付けも投資適格水準に引き上げられた。死亡率をはじめとする健康指標も悪化していない。むしろ、輸入品価格の高騰や所得の減少の影響で、飲酒と喫煙の頻度が減るなど健康の改善を示唆するデータも見られているという。
こうしたユニークなアイスランドの対応について、IMFも事後評価レポートで次のように評している。
「アイスランド政府は危機後も福祉国家としての根幹を守るという目標を掲げ、そのために福祉を堅持した。それをいかにして財政再建と両立させたかというと、まず歳出削減においては福祉を損なわないように配慮し、また歳入増加においては富裕層への増税を柱とした」
「すなわち、累進性の高い所得税を導入し、付加価値税の税率を引上げ、予算削減は効率化が見込める分野に絞ることによって、福祉予算を維持できるようにしたのである」