「科学的に考えること」の浸透を期待
この漫画は、2013年に朝日新聞と読売新聞が連載30周年を記念して「リアル美味しんぼ 究極vs至高の料理対決」をしたことがあるように、事実を追求すべき新聞記者が主人公だ。その意味を踏まえた上での報道がないのが残念だ。「知ろうとすること。」(新潮文庫 2014年9月)は、事故後の混乱の中、事実を科学的に分析してきた物理学者の早野龍五氏が、糸井重里氏と「科学的に考えることの大切さ」を語り合う素敵な本だ。
放射線問題の言説は、世の中に広く流布する「ニセ医学」に似ている面がある。日本におけるこのなんとも不可思議な状況を少しでも打開しようとネット上で発信してきたNATROM氏の「『ニセ医学』に騙されないために」(メタモル出版 2014年6月)もお勧めだ。報道の現場で「科学的に考えること」が今後浸透することを期待したい。
放射線問題について、本当の真実はないという両論併記的対応には、安易な価値相対主義的なニヒリズムを感じる。その日本でサンデルの「これからの『正義』の話をしよう」(早川書房 2010)が震災当時一世を風靡したのは大いなる皮肉だ。地元紙が長期連載する「福島と原発」(福島民報社編集局 早稲田大学出版会)も3巻目が2015年2月に出た。最終章は「ふくしまは負けない」である。福島の人々は、開沼博氏が新著「はじめての福島学」(イースト・プレス 2015年3月)で示したように、中央メディア・知識人の上から目線の「ありがた迷惑」がふりかかる中でも、着実に復興に向けて歩みを進めている。
経済官僚(課長級)AK