「クラシック音楽」を作った作曲家

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ロマン派当時の"懐メロ"を復活上演

   さらに、彼は、その当時まだ「同時代の音楽」、言い換えれば「最先端の音楽」だった、現在のクラシック音楽だけを取り上げるのではなく、彼から見て、ちょっと前の時代――ベートーヴェンなどの「古典派」と呼ばれる人たちの時代――や、さらにその前の時代――バッハなどの「バロック」と呼ばれる時代――の音楽を、復活上演し、それらの曲をすっかり忘れていた当時の聴衆に、あらためて、魅力を紹介したのです。彼の演奏会のプログラムコーディネートによって、「少し前の時代の音楽」も「現代の音楽」に混ぜて演奏されるのが当然の習慣となり、ここに「クラシック(ちょっと古い)音楽」というジャンルが誕生してしまったのです。もちろん、メンデルスゾーンはクラシック音楽、というような言葉は使用していません。さしずめ、日本でいうところの「懐メロ」を、ヨーロッパ諸言語ではクラシック、と表現することにしたわけです。比較的新しい言葉だという証拠に、英仏独伊どの言語でも「クラシカル」「クラシック」「クラシッシェ」「クラシカ」というほぼ同じ言葉を使います。

   メンデルスゾーンは、同時代人や後輩だけでなく、面識のない前時代の人たちのことも、自分が彼らの曲を演奏することによって、評価して、宣伝して、人々に繰り返し聴かれるように紹介していったわけです。これほどまで、他人を立てて、他人に気配りをした音楽家は、歴史上数少ないといってもいいでしょう。

   「ヴァイオリン協奏曲 ホ短調」はクラシック屈指の名曲として、よく演奏されますが、彼の他の作品は、もっと演奏されてもよいはずです。そこには、その後、ドイツを覆った反ユダヤ主義――実際、ナチス時代は、彼の音楽は演奏禁止になったり、いろいろひどい迫害を受けました――の影響がいまだないとは言い切れないのです。

   そんな困難な時代を経ても、メンデルスゾーンは、ひょっとしたら草葉の陰から、今の現代の世界で、自分と自分以外の「クラシック音楽作品」が、これだけ広く聴かれているということを、ニコニコしながら見守っているような気もします。

本田聖嗣

本田聖嗣プロフィール

私立麻布中学・高校卒業後、東京藝術大学器楽科ピアノ専攻を卒業。在学中にパリ国立高等音楽院ピアノ科に合格、ピアノ科・室内楽科の両方でフプルミエ・プリを受賞して卒業し、フランス高等音楽家資格を取得。仏・伊などの数々の国際ピアノコンクールにおいて幾多の賞を受賞し、フランス及び東京を中心にソロ・室内楽の両面で活動を開始する。オクタヴィアレコードより発売した2枚目のCDは「レコード芸術」誌にて準特選盤を獲得。演奏活動以外でも、ドラマ・映画などの音楽の作曲・演奏を担当したり、NHK-FM「リサイタル・ノヴァ」や、インターネットクラシックラジオ「OTTAVA」のプレゼンターを務めるほか、テレビにも多数出演している。日本演奏連盟会員。

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