桜に一生を捧げた男の物語
桜の研究といえば、笹部新太郎という伝説的な人物がいた。明治生まれの笹部は、東京帝国大学法学部を卒業後、犬養毅の秘書を務めたエリートでありながら、定職に就かず、日本全国をめぐり、桜の固有種の研究と保護に私財を投じた。現在も花見の名所として名を馳せる大阪造幣局の通り抜けや奈良県の吉野などは、笹部の管理・指導によって今の姿となっている。
直木賞作家である水上勉が、笹部をモデルに描いた小説が『櫻守』(新潮社、723円)だ。なつかしくおだやかな関西弁がじんじん心にしみていく。1967年に毎日新聞で連載された作品が書籍化されて以来、長く愛されている名作である。