ハコモノによる振興に頼らない
もう一つは、工場の誘致や観光の振興といった従来型の地域振興に頼らないという視点である。つまり、外部からハコモノを調達することによってではなく、それぞれの地域において、当たり前と考えられてきたものに価値を見出し、それを資源として活用することによって、地域を活性化しようとすることである。本書は、「価値がないと思い込んでいたものが実は町作りの武器になる、東京にはないものだからこそ、東京とは違う魅力をつくっていける」と指摘する。
条件不利地域に東京と同じものを再現しようとすれば、初期コストだけでなく、その維持管理コストも莫大になる。他方、その地域はそもそも「条件不利」なので、そうしたことをしたとしても他の地域と比較して特段魅力が増すわけではなく、結局は重いツケだけが残るといったことになりがちだ。そうではなく、その地域の個性をより磨く形で地域振興をすることが重要なのだ。
これらの点は当たり前といえば当たり前だが、本書ではこうした点が実例を交えて熱く語られており、やはりそうだなと実感させられる。そして、国としても、こうした先進的な取組に最大限応えるべく、障害となっている制度を改善したり、背中を押すための財政的支援を行ったりすることが必要だと強く感じる。
しかし、全ての地域が本書で語られているような実践をするわけではないだろう、と考える時、そうした地域に対して我々はどう関与すべきか、ということも同時に考えさせられる。地域間競争の中で自然に淘汰されるのに任せるべきか。パターナリスティックに介入すべきか。介入するとして、バラマキ以上の何かができるか。人口減少社会が現実のものとなる中、「地方創生のために何をすべきか」というのは大きな課題だが、「どこまでするか」というのもまた大きな課題なのだ。
(経済官庁 室長級)