富を産み出す源泉を山に求める
本書の全体を通じての論調は、さほど目新しいものではない。一言で言えばグローバリズムへのアンチテーゼ。「物質的な豊かさ」に対して「精神的な豊かさ」の重要性を強調したり、「ナンバーワン」ではなく「オンリーワン」でいいと言ってみたりしてきた論調の一形態である。
しかし、「里山」を起点としたサブシステムを構築するという提案は、条件不利地域における「地方創生」を考えるに当たって重要な視点を再認識させられる。
一つは、富を産み出す源泉を山に求めるという視点だ。山は基本的に条件不利地域を形成する大きな要因であり、実際多くの条件不利地域は山村だ。これに対し、本書は「マネー資本主義の下では条件不利とみなされてきた過疎地域にこそ、つまり人口当たりの自然エネルギー量が大きく、前近代からの資産が不稼働のまま残されている地域にこそ、より大きな可能性がある」と指摘する。
このように、地域に豊富に存在する「山」というものを資源化し、それを最大限活用できれば、条件不利地域においても、自律的かつ持続的な社会・経済活動が十分可能になる。上述の真庭市の製材会社の例では、木くずを活用することとした結果、以前に比べて年間4億円収支が改善し、更にその上、木質ペレットの販売による収入も得られるという。なにも、こうした地域に日本全体を支えるだけの富を産み出すことを期待する必要はない。その地域を支えられるだけの富を産み出すだけで十分だ。そういった地域がいくつも出てくれば、地方の創生は大きく進む。