本書が示唆すること
著者の意図を善意に解釈すれば、多極化する世界を俯瞰し、将来の紛争がフォルト・ラインで頻発するとの冷徹な国際情勢認識を提示したものだろうが、米国の一部にあるこうした一方的な認識をよく把握しておくべきと評者は感じる。さらに言えば、他文明への無理解という危うさを西欧文明が孕むと知るために、ひいては日本文明が同様の愚を犯さぬよう厳しく自戒するためにこそ、本書は有意義ではなかろうか。
本書で西欧文明の歴史上の過ちが全く触れられぬことは、米国の気質と無縁ではあるまい。我が国も肝に銘ずべきと思うが、誰の目にも明らかな罪を自ら認めぬ者が、他者の批判に耐えられるはずもない。よって仮に我が国が米国に「悪い」面の修正を促すならば、正面から指摘はせず、他文明の主張を咀嚼あるいは忖度して西欧文明のロジックでも解るよう「翻訳」する必要があろう。加えて冒頭に述べた米国の「良い」面、すなわち民主主義のダイナミズムの発揮を、まさに日本文明的に婉曲に慫慂するならば、一体化する世界はもう少し住み易くなるのではなかろうか。
酔漢(経済官庁Ⅰ種)