綿密な取材で描かれる新人ケースワーカーが遭遇した生活保護の現場

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「健康で文化的な最低限度の生活(1)」(柏木ハルコ著、小学館)

   20数年前、評者が勤務していた自治体において、深夜遅くまで職員が働いていた部署は、企画部、財政部、そして福祉事務所(保護課)であった。保護課では、夕方以降、家庭訪問などに出掛けていたケースワーカーが戻ってきて、日中、接触できなかった受給者への電話連絡やケース記録の記入などに追われていた。

   残業だけでなく、仕事の内容もストレスフルでハードだった。本書にも出てくるが、自殺企図を口にする者、薬物中毒や心の病のために暴力行為に及ぶ者などへの対応にケースワーカーは神経を使っていた。加えて、市民から寄せられる「毎日、パチンコ三昧の○○に、生活保護を出すなんて税金の無駄遣いだ」、「△△は、高級車を乗り回している。ちゃんと調べろ」といった通報や苦情への対応にも苦労していた。

   当時は、まだ「福祉職」の採用枠があり、ケースワーカーも、元々、福祉の仕事がしたいと入職してきた者が多かったが、現在では、本書の主人公のように、福祉とは無縁な新卒者が配属される場合も多い。

   本書は、社会人1年生の女性ケースワーカー(義経えみる)が、初めて遭遇した生活保護の現場を描いたマンガ作品。綿密な取材に基づいて、多様な受給者が置かれた状況と、現場で葛藤しながら奮闘するケースワーカー達の様子が、リアリティをもって描かれている。

  • 健康で文化的な最低限度の生活(1)
    健康で文化的な最低限度の生活(1)
  • 健康で文化的な最低限度の生活(1)

いろいろな人がいて、いろいろな人生がある

   「薬物の後遺症による幻覚があり、引きこもり状態の若者」「夫の暴力から逃れて、一時、シェルターで保護された母子家庭」など、生活保護の受給者には、いろいろな人がいる。そして、その背景には、いろいろな人生がある。

   義経えみるのケースワーカーとしての最初の訪問は、75歳の女性、丸山さん。3年前に娘が小学4年の孫娘を置いて男といなくなってしまったため、その孫娘を引き取って暮らしている。先輩とともにアパートを訪問してみると、コンロの火の消し忘れによる焼け跡、部屋に立ちこめる尿の臭い、散らかり放題の部屋の様子から、認知症の発症が疑われた。先輩は、このまま放置できないと、即座に、保健師の訪問の手配と、ホームヘルパーの利用につなげるための介護保険の申請手続きを進めることを決断。生活保護とは単にお金を支給して終わりというものではないのだ。

   一方、義経自身が思わず、「あんな人まで面倒見なくちゃいけないんですか」と口走ってしまうような受給者もいる。本書では、「若い頃、銀座や六本木でさんざん遊んだ末に、身を持ち崩し、今では、生活保護費で馬券を買っているような初老の男性」が登場する。

   納税者の意識からすると、納得がいかないケースにも見えるが、先輩は義経を諭す。

「生活保護はあくまで『現在の困窮』だけを見て、過去を問う制度ではありませんからね」
「過程はともかく困窮したから福祉事務所に来たわけです」
「医者が患者に『かつての暴飲暴食で体壊した』からって、『自業自得だから治さない』とは言わないのと同じです」
「(それに)自業自得としか思えない人にもそれなりの背景がありますよ」

【霞ヶ関官僚が読む本】現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で「本や資料をどう読むか」「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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