原題にはリストの作品に対するリスペクトも
ここが翻訳の難しさですが、ラヴェルのこの曲の原題は「ジュ・ドー」。リストの曲の原題も、「ジュ・ドー・ア・ラ・ヴィラ・デステ」です。リストが「エステ荘の噴水」なら、ラヴェルの曲も「噴水」と訳すのが、よいのでしょうが、それではつまらない、と、「水の戯れ」という文語調の翻訳がなされ、広く知られています。確かに、噴水における「水の戯れる様子」を描写した曲にはふさわしいのかもしれませんが、かえってこの邦訳題名が、本来噴水であるという重要な要素を落としてしまっているために、作曲者の意図を曲げているような気がしてなりません。
そこには、人間のデザインによって動かされている水の風景、という意味と、印象派音楽の先駆としてのリストの作品に対する、ラヴェルのリスペクトも含まれているはずだから、です。
本田聖嗣