「インフォメーション・エコノミー 情報化する経済社会の全体像」(篠崎彰彦著、NTT出版)
情報化が進み、各企業のIT関連投資が進むことで、生産性の向上は期待できるのか。そして、技術革新、イノベーションの推進を通じて、経済の発展、さらには社会的課題の解決も図れるのか。本書は、そのような疑問に対し、従来の経済学の概念を使いつつ、情報化がもたらす企業文化への影響、生産性への影響、そして雇用への影響について解説を試みた本である。
技術革新を生産性の向上につなげるために必要なこと
まず、「情報化がもたらす価値」について、「ロスチャイルド家の伝説」というものが紹介されるのが興味深かった。金融財閥のロスチャイルド家は、フランス(ナポレオン)とイギリス(ウェリントン)の決戦となった1815年のワーテルローの戦いで、イギリス勝利の情報をいち早く入手し、イギリス国債の売買で巨万の富を得た、というのである。この場合、「イギリス軍勝利」という情報に価値があり、それを利用することで大きな財をなす契機にできる、ということだが、「情報を制するものは経済を制する」というのは現在にも通じるテーマである。そして、現在、IT技術を利用することで、情報は国境を通じて簡単に手に入るようになり、その情報を生かしてビジネスを行うことで得る成功報酬も、国境を越えたグローバルな規模のものになりつつある。現代ほど情報のもたらす価値が高く評価されている時代はないのではないだろうか。
ただし、本書においては、単純にIT投資を増やせば生産性が上がる、といった楽観論を検証し、それが必ずしも真実ではない、としている。そこで、「ソロー・パラドックス」というものが紹介される。「情報化が進んでも生産性の向上が実現しない逆説」として知られ、1970年代に米国経済が直面した生産性の長期停滞の原因はいったい何だったのか、という問題提起であった。これについては、一つの解として、「創造的破壊を伴うS字型の経済発展」というものが紹介される。すなわち、産業革命でも当初、雇用を奪われた人たちが暴動を起こしたように、技術革新に対しては拒否反応を起こす人もいるが、技術を生産性の向上に導くためには、それまでの企業文化をある意味一度「破壊」し、あらたな環境を創造する必要がある、ということ、そして、その効果は最初は現れにくく、ある程度の適応期間をおいて、急激に現れる、というものであった。