核軍縮の議論を鳥瞰できる良書 行間に浮かぶ「核なき世界」実現の困難さ

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共通の知識の土壌が必要

   本書は、信山社の「現代選書」シリーズの一冊である。同社の本シリーズ刊行の辞には「新しい問題に拙速に結論を出すのではなく、広い視野、高い視点と深い思考力や判断力を持って考えること」が大切とし「複雑で混沌とした時代に...分野や世代の固陋にとらわれない、共通の知識の土壌を提供」するべく刊行する、とある。

   非核化の協定締結の難しさ、核物質管理、そして国際紛争解決のための米国の姿勢の当否。本書で考えさせられたテーマいずれをとっても、「拙速に結論を出す」ことは回避するのが賢明と評者も感じる。他方、本書が「共通の知識の土壌を提供」するのは、あくまで核軍縮という一つの方向性の枠内のものである。法学は一つの価値学であるとすれば、著者の意図もその範疇であろう。

   だが議論の射程を「核軍縮」から「国際紛争の防止」にスライドさせた途端、核軍縮への反論に象徴されるように、オバマ政権=進捗、ブッシュ政権=停滞といった割り切りは困難となり、「共通の知識の土壌」としてはより多面的な事実が要請される。

   国内の出版状況を見るに、軍事面での学術的な客観性がある入門書は少ないと思う。刊行の辞にある信山社の意気を買いたい評者としては、このシリーズから、軍事外交についてより広範なテーマの書籍が出ることを期待したい。

酔漢(経済官庁Ⅰ種)

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