「核なき世界」は見通せるのか
意味があるのは議論そのものではなく結果を出すことだが、見通しはどうか。
本書は核兵器のない世界の実現に向けた様々な提案、勧告、行動計画なども簡潔に紹介する。例えば、「グローバル・ゼロ行動計画」なる宣言において、米露の弾頭数の削減、他の核兵器国も米露に比例して削減、世界的な核兵器ゼロの協定を交渉する、といった段階的なアプローチが提示された、というが如きである。
しかし、こうしたアプローチへの反論もあるという。核兵器による抑止力こそが平和に貢献している、核廃絶の約束を違える国が出る恐れがある以上は非現実的だ、核兵器国の核戦力低下は相対的に核保有の優位性を高めるのでむしろ核拡散が進んでしまう、といったものである。
軍縮論者も言及する反論であるなら、それ故に「核なき世界」の具体化はなかなか見通せていない、と受け取ることもできよう。
評者は、米国が、一方では高い理想を掲げつつ、他方で無人攻撃機による主権侵害を活発化させているとの報に接するとき、リアリズムの要請は理解するものの、どうしても違和感を拭い去れない。テロリスト収容所での拷問も然り。法の支配や人権保障という自由主義陣営の最大の価値をゆるがせにすれば、核軍縮のような高邁な理念もその輝きを喪いかねない。米国の主張は、核拡散が危惧される諸国に説得的に映るであろうか。