オバマは世界の救世主か?
本書は、米国はじめ核兵器国の役割を重視する。当然であるが、軍縮を研究している故かオバマ米大統領を間接的に評価する記述が散見される。同大統領のプラハ演説が「核なき世界」を掲げ、ノーベル平和賞につながったのは周知の通りだ。ローマ法王の2015年年頭挨拶で広島の原爆禍に言及があったことと併せ考えれば、世界で核の脅威をこれまで以上に真剣に受け止める理性的な動きがあることは事実だろう。
他方、本書でオバマ政権と真逆に対比されるのはブッシュ(Jr)政権である。核による先制攻撃をも躊躇しない姿勢などを指摘しつつ、ブッシュ政権の故に核軍縮が進展しなかった、というトーンだ。軍事の素人である評者には判断がつきかねるものの、ブッシュの姿勢は、ならず者との妥協は禁物との原則に従ったものではあったろう。そうした原則が打ち立てられるには相応の合理性があるはずであり、優柔な姿勢こそがむしろ危機を拡大するとの議論も一定の説得力がある。そもそも核抑止力という概念自体、核攻撃の可能性があるからこそ成立する。核軍縮の議論だけは始まった、しかし世界は不安定化した、ということになって良いはずもない。