「核軍縮入門」(黒澤満著、現代選書)
外交文書の公開により、日本への米軍の核持込みに関する文書が時折報道される。歴史的文書について、全体を鳥瞰せず一部表現を切出しての論評は慎むべきと評者は思うが、核の議論の歴史や構造の把握が容易でないことも事実だ。
軍縮国際法の専門家が著した本書は、国際社会が核軍縮ひいては平和利用を含む核物質の拡散防止にどう取り組んできたかを解説する。学者らしい淡泊な記述の上、入門書の例にもれず、膨大な背景が凝縮され「平易な故に難解」の矛盾もあるが、図表入りでも134ページとコンパクトで、この議論を簡単に鳥瞰できる良書と思う。
核を巡る意外な?事実
本書には、専門家には常識だろうが、不勉強な評者は初めて知る事実が数多くあった。
一つの例が「今では南半球はほぼすべて非核兵器地帯でカバーされている」(本書P77)ことだ。さらに、これら非核化の協定のうちいくつかは、実際の核の脅威を契機にまとまった点も興味深い。具体的には、ラテンアメリカのトラテロルコ条約はキューバ危機、南太平洋のラロトンガ条約はムルロワ環礁での仏の核実験がそれぞれ契機だったという。
この事実は示唆に富む。危機意識の共有が協定をまとめさせたのだろうが、裏を返せば、危機にならねば人間は動き難いという証左ともいえるからだ。
もう一点例を挙げれば、核物質の不法取引が相当数あることだ。多い年には盗難・紛失が120件超(2006年)、不法投棄等も160件超(2007年)だ(本書P111)。個別事案は詳細不明だが、頻発すればテロリストに渡るリスクも高まろう。