国の誇り「ヴルタヴァ」 川を題材にしたスメタナの名曲

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川を源流から大河になるまで音で描写

   しかし、状況は変わります。すべては、タイミングだったのかもしれません。中年以降、スメタナは、チェコ語を猛然と学び出し、チェコの独立に一層、情熱をかたむけました。さらに、同時期に病気により、聴覚を失うという悲しい事態にもなりました。周囲の状況も、本人の健康もすぐれない中、かれは、かつて温めていた「チェコを代表する川を源流から、プラハ市内を流れるまで、音楽で描く」という構想を楽譜にしたためて、連作交響詩「わが祖国」の2曲目としたのです。

   大変な情熱をもって書かれた「わが祖国」は、素晴らしい曲が多く、今でもプラハを代表する音楽祭、「プラハの春音楽祭」――これも、冷戦時代、ソ連によるチェコ弾圧の歴史にちなむ名称ですが――のオープニングでは、全6曲が通して演奏されます。

   その中でも、だれにも愛される有名な旋律と、「川を源流から大河になるまで音で描写する」という優れた発想によって、第2曲の「モルダウ」こと「ヴルタヴァ」は、世界で愛される名曲となったのです。スメタナの情熱のなせる業でしょうか、「ヴルタヴァ」は、聴くだけで、チェコの風景と、苦難の歴史を感じさせてくれます。

本田聖嗣

本田聖嗣プロフィール
私立麻布中学・高校卒業後、東京藝術大学器楽科ピアノ専攻を卒業。在学中にパリ国立高等音楽院ピアノ科に合格、ピアノ科・室内楽科の両方でフプルミエ・プリを受賞して卒業し、フランス高等音楽家資格を取得。仏・伊などの数々の国際ピアノコンクールにおいて幾多の賞を受賞し、フランス及び東京を中心にソロ・室内楽の両面で活動を開始する。オクタヴィアレコードより発売した2枚目のCDは「レコード芸術」誌にて準特選盤を獲得。演奏活動以外でも、ドラマ・映画などの音楽の作曲・演奏を担当したり、NHK-FM「リサイタル・ノヴァ」や、インターネットクラシックラジオ「OTTAVA」のプレゼンターを務めるほか、テレビにも多数出演している。日本演奏連盟会員。

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