SF短編名手の「ノンフィクション」 実業家の父襲った政官巻き込む陰謀

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鋭い「役人の生態観察」

   「やはり事実か」と感じさせる記述のひとつが、官僚・官憲とのやり取りの場面だ。事業家から見て行政がルールを盾に立ちはだかるとき、その言動がどのように映るか、被害者による観察が描き出されており、これが迫真のものだからだ。

   業界・政治の癒着により無実の者を陥れる国策捜査は、現代ではあり得ない。しかしここで描かれる、官僚の一見真っ当にみえながら論理のかみ合わない主張と相手方の苦闘には、既視感がある。古くはクロネコヤマトで知られるヤマト運輸の故小倉昌男氏が挑んだ運送事業の規制緩和、最近ではケンコーコムの後藤玄利氏の医薬品ネット通販解禁に向けた闘争を想起するからだ。「法は制定された瞬間に陳腐化する」との法諺(ほうげん)がある。日進月歩の技術革新の恩恵が国民に速やかに行き渡るよう、法令を不断に改正、または柔軟に解釈することは霞が関の一方の務めのはずだが、それが利害関係者の反発を生むのも事実であり、往々にしてそこに政治が絡む。

   そうした間合いの難しさを象徴するのが役人の座る「イス」、つまりポスト(役職)だ。そこを著者はこう表現する。「衛生局長も本来は温厚な性格の主であり、べつに星に憎しみを持っているわけではない。だが、この椅子についたからには、周囲からの力により...こんな応答をしなければならなくなる。悪魔ののろいのこもった椅子があるとすれば、それはこれかもしれない」。ここで「周囲からの力」と簡記された六文字の裏側が、評者には強烈な圧力として想像される。

【霞ヶ関官僚が読む本】 現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で、「本や資料をどう読むか」、「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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